甘え下手
真面目な社会人の自分がストップをかけて、私は大人しくノンアルコールの梅酒の缶を開けた。


「これも女の人が置いていったんですか?」

「比奈子ちゃん俺のことなんだと思ってんの」


阿比留さんが半ば呆れた面持ちで問いかける。

阿比留さんとノンアルコールが結びつかなくて訊いただけなんだけど。


「人でなしの遊び人……?」


半分冗談、半分本気で訊いてみたんだけど、阿比留さんは「ハッ」と吐き捨てるような笑いをこぼしただけだった。


「これは俺のだよ。酔いたくて、でも絶対酔いたくない時に飲むの」

「酔いたくて酔いたくない時……?」

「自分を騙すんだよ。アルコール飲んでるから寝れるって。比奈子ちゃんも騙されたと思ってやってみ?」

「阿比留さん眠れないんですか……?」


会話の流れで訊いただけなのに、阿比留さんはちょっと片眉を上げて複雑な表情をした。

あれ、また私言っちゃいけないこと言った?


焦って気づかないフリをして、ノンアルコールの梅酒をゴクゴクと飲んだ。


「比奈子ちゃんがそばにいてくれたら眠れるかも」
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