甘え下手
死んでしまった恋心を弔うような静寂に、今度は沙綾に対して罪悪感を覚える。

沙綾は今私が待っている相手が阿比留さんだと知ったらどうするんだろう。


……とりあえずブチ切れるんだろうな。


ぶるぶるっと背筋を震わせると、沙綾は「風邪ひくから早くお風呂入りなよー」と言い残して自分の部屋へ行ってしまった。

気を遣ってくれたんだろうと思うと、益々申し訳なく思う。


この先、阿比留さんとちゃんとお付き合いしてくならば、早めに沙綾に報告しようと思った。


「……ってどの段階から付き合ってるって言うんだろう……」


キスはした。

家にも泊まった。


……鳴らないスマホ。


「うー、よく分かんないっ」


そばにあったクッションを壁に投げると、お風呂に入るために立ち上がった。


ここはさーちゃんの言う通り、気分転換をはかるためにお風呂に入ってしまおう。


阿比留さんからの着信に気づいたのはそれから40分後だった。
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