甘え下手
慌ててかけ直すとしばらくコールが鳴った後、留守電に切り替わるタイミングで阿比留さんの声が聞こえてきた。


『もしもし』

「あ……こんばんは」

『ああ』

「すみません、お風呂入ってて」

『あー、べつに。かけるの遅くなったのこっちだから。もう飯食ったよな?』

「……」


ここで食べましたっていうのがデキた女なんだろうか。

ぐーと鳴るお腹を押さえたまま思わず黙ってしまうと、阿比留さんが焦った声を出した。


『まさか食ってねえの? もしかしてずっと待ってた?』

「……はい」

『マジ? わりぃ。電話するの忘れてた』


チーン。

頭の中で鐘が鳴った。


そうかなそうかなとは思っていたけれど、まさか忘れられる存在だったとは。

さーちゃん、ここはブチ切れるべきですか。


『比奈子』

「……はい」


文句を言おうとしたタイミングで名前を呼び捨てされて、一瞬息を飲んだだけで終わってしまった。
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