甘え下手
「残業代で買ったって思われるのも何とも格好つかないけどな」


阿比留さんがハハッと笑って、私は気まずい気持ちで唇をへの字にした。


「そんな意味じゃなかったんですけど……」

「兄貴のだよ」

「え?」

「元は兄貴の。安く譲ってやるって言うから、もらっただけ」

「あ、そうなんですか。お兄さん優しいですね。こんなピカピカの車……」

「相変わらずおめでたいね、比奈子ちゃんは」

「……」


いつか聞いた冷たい響きの声音は、最近の阿比留さんにはなかったもので、私の心は冷水に浸されたみたいに、一気に寒くなった。

『比奈子』じゃなくて『比奈子ちゃん』。


たぶん阿比留さんは今私にものすごくイラっとした。

阿比留さんと話しているとたまにそう感じることがある。


そんな時はどうして阿比留さんが私の隣にいるのか、分からなくなる。


お兄さんの話は禁句なのかな……。


私の不安な気持ちを察したのか、阿比留さんは少し慌てたように、「優しいとかじゃなくただ飽きただけ。飽きっぽいだけだよアイツは」とフォローのような言葉を口にした。
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