甘え下手
優子さん
「比奈子ちゃん。ワイングラス洗ってもらってもいいかな?」

「はい」


優子さんと並んで広すぎるシステムキッチンに二人で立つ。

阿比留さんはリビングでテレビを見ていて、傍らではお母様があれこれと話しかけている。


結局私はお母様が気分が優れないから片付けを優子さんにお願いすると言うのを聞き逃さずに、強引に優子さんのお手伝いをすることを申し出た。

あまり自己主張はしない方がいい気もしたけれど、こうして遠くから阿比留さん親子を見守ると、久しぶりに会えたのかお母様がとても嬉しそうに阿比留さんに構うから、やっぱり親子二人の時間を作ってあげることができてよかったと思う。


優子さんは備え付けの食器洗い機に食器を入れる作業をしていて、私は隣でワイングラスを手洗いすることになった。

薄いグラスは高級そうで私は落とさないように細心の注意を払って洗い始めた。


「比奈子ちゃんは翔馬くんとはいつから付き合ってるの?」

「え? ……いつ、なんでしょう」

「え?」

「よく分からなくて、ハハ……」


正確には先週、出張から帰って来た日が正しいんだろうけど、直近過ぎるのが恥ずかしくて言えなかった。

怪訝な表情をする優子さんに私は曖昧に笑って、その場を誤魔化した。
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