甘え下手
優子さんがふふっと笑う。

さっきの食事会とは別人のように気さくで、よく笑う人なんだなと思った。


だけどやっぱり私の心は晴れないままで。

その後の会話は何を話したのか、よく覚えていなかった。



***

「比奈子、そろそろ行くか」


片付けが大体終わった頃合いを見計らって、阿比留さんが声をかけてきた。


「お手伝いありがとう。またいらしてね」


お母様は最後にニッコリとよそ行きの笑顔を向けるとリビングを出て行ってしまった。

とりあえずご機嫌は直ったみたいなのでホッとする。


「もう少しゆっくりしていけば? 比奈子ちゃんに翔馬くんの部屋とか見せてあげないの?」

「部屋なんて見たって何も置いてないから」

「ええー。そんなことないわよ。女の子は見たいものよね? 彼氏の実家の部屋」

「……はい」


胸のざわめきはいっそうひどくなって、私はこれが嫉妬という感情なのだと自分でも気づき始めていた。

私の知らない阿比留さんを知ってる優子さんに、私は嫉妬している。
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