甘え下手
「じゃ、ちょっと見るぐらいな」

「え、いいんですか?」

「あとで飲み物持って行くわね。ごゆっくり」


優子さんに軽く手を挙げて応えると、阿比留さんは私を促してリビングを出た。

そのまま広い廊下を通って奥の階段を上がって行く。


私はキョロキョロと周りを見回しながら、阿比留さんの後に続いた。

広い階段の踊り場には絵画が飾ってある。


詳しくない私にはサッパリ分からないけれど、きっと高級なものなんだろうと思った。


阿比留さんの部屋は本当に何もなかった。

デスクとその上にデスクトップパソコンが置いてあるぐらい。


ベッドは形だけ残ってるという感じで、布団も敷かれていなかった。

学生の頃の阿比留さんを感じさせるようなものは何も置いていない。


「阿比留さん……。実家出て長いんですか?」

「ああ、そう。高校出てからだから、10年近く?」


それならこの生活感のなさも不自然じゃない。

そしてきっと阿比留さんは実家に戻ってきて泊まったりすることはないんだろうなと想像がついた。
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