甘え下手
ノックをしたのは予想通り優子さんで、コーヒーを乗せたトレイを持って部屋へと入ってきた。


「あ、ごめんなさい……。テーブルくらい出しておくんだったわ」


困ったように眉を寄せる優子さんはコーヒーの置き場に困っているようだった。


「そんなのいいよ。置いても使う予定ないから」


阿比留さんはトレイを受け取ってパソコンが置いてあるデスクの空いているスペースに乗せた。


「そんなこと言わないでよ。今日だってお母様も喜んでいたし。こうして一緒に来てくれる彼女もできたことだし、もっと帰ってきてくれればいいのに」

「今日はたまたま。次からは連れて来ないから」

「え……」


キッパリ言われて思わず戸惑いの声を上げてしまった。

阿比留さんがきょとんとしてこちらを見る。


「何? 比奈子また来たいの?」

「……」


来たいか来たくないかと言われれば、決して来たいと思ってるわけじゃない。

気を遣うし。やけにハラハラしちゃうし。


だけどそれが阿比留さんの家族なら、私はもっと仲良くなりたいと思うんだけど。
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