甘え下手
「だよな。俺も楽しくねーもん」

「翔馬くん……」

「あー、冗談だって。そんな顔するなよ」

「また帰ってきてね。お願いだから」

「分かってるって」

「……」


何だろう、これ。

聞きようによっては遠距離恋愛の恋人同士……みたいな。


そんなこと考える私がおかしいのかな。


優子さんは阿比留さんとの再会の約束を取りつけたことで、嬉しそうに部屋から出て行った。

残された空間に微妙な空気が漂ってると思っていたのは私だけだったみたいで、阿比留さんは普通にコーヒーカップをソーサーごと手渡してきた。


「比奈子、砂糖は?」

「ひとつください」

「ミルクは?」

「入れてください」


手の上のコーヒーカップに角砂糖がひとつ落とされて、ミルクが注がれる。

それをゆっくりスプーンで混ぜながら、動揺する気持ちを落ちつけていた。


「優子さんって」

「ん?」

「阿比留さんの家庭教師だったんですか?」
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