甘え下手
「ん?」

「どういうつもりで私を連れて行ったんですか?」


ズバリと核心を突かれて、一瞬返答に迷う。

車が黄信号に変わったタイミングでゆっくりとスピードを落として車を停止させた。


煙草吸いたい。


チラリと灰皿に目を遣るけれど、彼女を乗せているのに吸うわけにもいかず、逃げ場を失った指はトントンと意味もなくハンドルを叩いていた。


どう答えれば彼女の機嫌を損ねずに済むのだろう。

そんなことを考えていた俺は始めから真実を告げる覚悟もなくて、その場を誤魔化しさえできればいいと思ってる卑怯者だった。


自分が抱えている複雑な心の奥底を彼女に見せたところで、この子が俺から離れるとは思わない。

それなのに核心に触れようとしないのは自分のちっぽけなプライドのせいだ。


口に出さなければなかったことと同じ。


頑なに弱音を吐きださない比奈子を思い出して笑えてきた。

彼女の性格をどうこう言う権利なんて実は俺にはない。


「前から実家に顔出せって言われてて、彼女ができたらそれに同行させようってのがそんなに不自然か?」
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