甘え下手
ここでこの子を逃すと大切なことを見失う。

短い付き合いだけど、彼女の性格が分かってきた俺は、車から降りようとする動作を見せた比奈子の腕をつかんで引き留めた。


「俺はどうしたのかって聞いたんだけど」


強い口調で言うと比奈子はちょっと困ったように瞳を揺らした。

それを見てやっぱり言いたいことがあるんだろうと確信した。


「ワガママでもなんでもいいから思ったこと言って」

「……寂しいと思っただけです」


下を向いたままボソっと告白した内容は、正直俺には意外なものだった。


寂しい?

何が?


確かにデートは実家だったけど、二人の時間も過ごしたしキスもした。


何か寂しがらせるようなこと……したか?

一瞬、頭に浮かんだのはあの人のこと。


だけど比奈子を悲しませるような態度を取った覚えはない。


「教えて。なんで寂しい?」
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