甘え下手
なるべく優しい声を出したのは、彼女に対する後ろめたい気持ちがあったせいかもしれない。

だけど比奈子の答えはそうじゃなかった。


「阿比留さんが寂しいと思ってるような気がして……」

「は?」

「だから寂しくなっただけです。一緒にいたいと思っただけです」


比奈子は照れ隠しなのか一気にしゃべると自分の膝の上に置いた手をギュッと握りしめた。

車内は薄暗いけれど、それでも彼女の顔が赤く染まっているのが見える気がした。


「す、すみません、変なこと言って! おやすみなさ……っ」


言い逃げてドアを開け、車から降りようとする彼女を腕の中に閉じ込めた。


衝動に任せてぎゅっと力強く抱きしめる。

身体中に響くのは彼女の心音じゃない。


俺のだ。


トクントクンと胸の中に息づく感情はなんだろう。

異性に対してこんなに純粋な感情を抱いたことがあっただろうか。


比奈子が可愛い。

めちゃめちゃ可愛い。
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