甘え下手
『……どうして笑ってるの?』


電波の向こうでは少し不満そうな声。


「いや、点けてるTVが笑えただけ」

『……そう』

「まー、そのうち顔出すわ。一応、実家だからな」

『……また電話していい?』

「用があるならどうぞ? なんてったって弟だし」

『それじゃ……おやすみなさい』


彼女の最後の声は、俺の拒絶を感じ取って、少し寂しそうなもの。

こんな駆け引きじみた関係をもう何年も。


俺はスマホをソファの上に放り投げると、冷蔵庫からビールを取り出してプルトップを開けた。


ああ、せっかくいい感じで一日を終われそうだったのに。


初めてのデートの締めくくりは、一人で缶ビールの一気飲みとか。

冴えないな、俺。


今頃比奈子はすやすや寝息でもたててんだろうな。

彼女の寝顔を想像すると、荒れた心が少し落ち着いた気がした。
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