甘え下手
今まではちゃんと恋愛して彼女のことを考えるだとか、面倒だと思ってた。

社内恋愛なんてもってのほか。


社内にも寝た女はいるけれど、以来常に監視されてるようで、ことあるごとに口を出してきてウザかったから、会社の女には手は出さないことに決めていた。


そんな俺が。


あの人からの電話で落ち込んだ翌日。

取引先から理不尽な要求をされてギスギスした気分で会社に帰った日。


あの子を見かけるだけで気持ちが凪ぐことに気づいた。


また仁に仕事押しつけられてムクれてんなーとか。

自販機で買うのは6:4でココアかコーヒーなんだとか。


話をしなくても見かけるだけでホッとするし、微笑ましい気持ちになる。

なんつーか、和む。


あの子からは癒しのアルファ波でも出てんじゃないかと思う。


「恋だねえ」


昼休みにふとそんな話になった途端、目を細めてニヤニヤした仁が嬉しそうにそう言った。

食後の煙草にむせそうになった俺は眉をひそめた。
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