甘え下手
照れ隠しにイスに座り直しながら横を向いた。

気を抜くとすぐに阿比留さんの手の平で転がされそうだ。


「……どうして私なんですか?」

「……俺さ頭良かったのに、中学の頃はかなりの素行不良だったんだよね」

「……はぁ」

「俺の兄貴がめちゃくちゃ優秀な人でさ。同じように努力しても兄貴は超えられないって悟っちゃったわけ」

「……」

「そしたらさ、努力して兄貴の下に居続けるのがしんどくなってきて、いっそ努力なんてしねー方がかっこ悪い思いしなくてすむじゃん、みたいな」


背の高いスチールイスに座って、所在なく足をぶらぶらさせてじっとその足元を見ていた。

越えられない壁と勝負から逃げる気持ち。


阿比留さんが最初に私にやたら突っかかってきた意味が分かったような気がした。


「私達おんなじだったんですね」

「最初は俺もそう思ったけどさ、そうじゃない。なんだかんだ言ったって比奈子と沙綾は仲いいだろ」

「阿比留さんだってお兄さんに車……」


もらってたじゃないですか、と続けようとして実家でのお兄さんの様子が思い浮かんだ。
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