甘え下手
深呼吸をしてから「酷いです」って抗議しようと口を開きながら顔を上げた。


「ひど……っ」


近づいてきた唇に残りの抗議の言葉は吸い込まれた。

軽く吸いついてチュッとリップ音を立てて離れるお互いの唇。


「悪い。比奈子があまりに可愛いから見惚れてた」

「……冗談はやめてください。絶対私鼻息荒かったもん。小鼻ヒクヒクしてたもん」


恥ずかしくて俯いたままボゾボソと抗議の言葉を続けた。

恥ずかしい。嬉しい。落ち着かない。


さまざまな感情がぐるぐると胸の内を回る。


「こんなに誰かに見られないかビクビクしてるくせに……」


阿比留さんの手が膝に置いてる私の手の上に重ねられる。

その動作にもビクつく気持ちはあるのに、その手をふり払おうとする気持ちにはなれない。


「目を閉じて俺を受け入れたじゃん」
< 305 / 443 >

この作品をシェア

pagetop