甘え下手
「俺にキスされたかった?」


阿比留さんの声が妙に艶っぽくてドキドキする。

お酒に酔わされたみたいにクラクラして、私は阿比留さんの百戦錬磨のオーラに当てられてしまったみたい。


「比奈子、答えて」


だから阿比留さんの誘導に従って、私の頭は自然にコクリとうなずいていた。

阿比留さんの手が伸びてきて腰に絡みつく。


もう一度引き寄せられると、私はさっきと同じようにイスから降りて、立ったまま阿比留さんに抱きつかれている格好になった。


「やっぱかわいー。連れて帰っていい?」


阿比留さんの言葉は魔法。

決して可愛くない自分が可愛くなった気がしてしまう。


阿比留さんと付き合いだしたことをお兄ちゃんはもう知っている。

だからこれまで通り、気軽にお泊まりするなんて無理だろう。


お兄ちゃんに怒られる。


冷静な頭の片隅ではそれが分かっているのに、私の身体はやっぱり催眠術にでもかかったかのように阿比留さんの傍から離れることができなかった。
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