甘え下手
「逃げません。だって……」


私が座っているベッドの上に、阿比留さんが膝をついて上がってくる。

緊張のバロメーターはとっくに振り切ってる。


この緊張から解放されたくて逃げ出したいって気持ちはもちろんある。

だけど私の本当の気持ちは……。


「だって、何?」

「もっと阿比留さんに近づきたいから……」


甘え下手で恋愛下手な私だけど。

もっと阿比留さんのことを知りたいし、そばにいたいと思う。


阿比留さんは優しい顔でフッと笑った。


「そんなこと言ったらもう離せねーんだけど……」


ゆっくりと腕の中に閉じ込められると、私はもう完全に逃げ場を失った。

もっとも彼の温もりを一旦感じたら、そこから離れようなんて気持ちはおこらなくなってしまうのだけれど。


私はたぶん阿比留さんが思うよりも、ずっと阿比留さんに溺れてる。


「離さないでください……」
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