甘え下手
「積極的だね、比奈子ちゃん」


阿比留さんはからかうように笑ったけれど、私はギュッとしがみついた。

私にはふざけている余裕なんてない。


初めて手に入れた本物の恋だから、わけもなく不安になる。

こんなに幸せでいいのかな、とか。


阿比留さんを失っちゃったらどうしよう、とか。


今、最高潮に幸せなのにこんなこと考える私はおかしいかな。


ゆっくりと阿比留さんが私の身体をベッドに倒す。

見慣れないオフホワイトの天井は、毎晩阿比留さんが寝る前に眺めてるものなのかなとぼんやり思った。


他のことを考えてる余裕があったのはそこまでで、熱い口づけが始まってからはもう翻弄されっぱなしだった。

たぶん阿比留さんは初心者の私にかなり手加減をしてくれたのだろうけれど、私はまたしても息も絶え絶えになってしまった。


深呼吸をする間もなければ、恥ずかしいと思う余裕すらない。

ただ必死に阿比留さんにしがみついて、いつの間にか二人の間を隔てる布の感触が消えていたことに後から気づいた。
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