甘え下手
櫻井室長が苦笑しながら言って、私はかーっと顔が赤くなるのを感じた。


お兄ちゃん……!

絶対櫻井室長に阿比留さんとのことしゃべってる……!


実際、何度も兄からスマホに着信があったのに、上手い言い訳を思いつかない私は、ことごとくそれを無視していたのだ。

きっとお兄ちゃんが櫻井室長に早く会社に行って様子を見るように頼んだに違いない……!


「め、迷惑かけてごめんなさい……!」


慌ててイスから立ち上がって深く頭を下げる。

櫻井室長がクスっと笑ったのが分かったけれど、恥ずかしくて顔が上げられない。


お兄ちゃんは私の櫻井室長への気持ちを知らなかったんだから、悪意はないのだけれど、それでもこれは何の罰なんだろうって思う。

お兄ちゃんに面と向かって責められるよりも精神的ダメージは数倍だ。


「比奈子ちゃん、顔上げて」


周りにまだ人がいないことを確認したからだろうか、櫻井室長は柔らかく呼び方を変えて私に語りかけてきた。


「広哉に言われたからじゃないよ。俺が心配で気になったから来たんだよ」
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