甘え下手
ジクジクと忘れていた痛みが蘇り始めるのを感じた。


航太さん、その言い方はズルいです。


私を心配するのは妹みたいな存在だからだって分かってるのに、こうしてたまにされる特別扱いが昔の私は嬉しくてたまらなかった。

そんな過去の自分を思い出して切なくなる。


この優しい手を振り切ることができずにずっと苦しかった。

そんな私を引き上げてくれたのは阿比留さんだ。


頭の中で一生懸命、阿比留さんの笑顔を再生して自分を勇気づけた。

脳裏に浮かぶ笑顔はあの片方の口端を上げてる意地悪なときのものだったけれど。


「航太さん……」

「ん? 何?」

「私もう大人です。いつまでもセーラー服着てる高校生じゃありません」


頭を下げた状態で自分のつま先を見ながらしゃべった。

だけど逃げたままじゃいけないから。


顔を上げて櫻井室長の目を見る。

櫻井室長は少し驚いたような顔をしていた。
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