甘え下手
「ひと晩帰らなくても心配するようなこと何もないと思います」


言い切った後、緊張が解けてはあっと息を吐くと、櫻井室長はそれが可笑しかったのかふっと表情を緩めた。

だけどすぐに厳しい表情に戻って口を開く。


「比奈子ちゃんの言いたいことは、分かった」

「……」

「確かにウザいよな。兄貴のツレまでしゃしゃりでてきちゃ」

「……ウザいなんて」

「だけど考えてみ? 今まで無断外泊したことのない大事な妹が連絡つかないまま帰ってこないなんて、広哉にとっては一大事だぞ?」

「お兄ちゃんは過保護っていうか……」

「確かに過保護かもしれないけど、心配することないなんて比奈子ちゃんが言い切れないだろ? 事故や事件に巻き込まれてる可能性だってゼロじゃない」

「……」


てっきりお兄ちゃんは阿比留さんのところに泊まったことがバレバレだから怒ってるんだと思ってたけど。

言われてみれば確かにその可能性がゼロだなんて言い切ることは誰にもできないはずだ。


私が幸せな気持ちを感じて眠りに就いた夜に、心配性のあの兄がどんな夜を過ごしたんだろうと思うと、今さらながら胸が痛んだ。
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