甘え下手
結婚を意識しろって言ってるみたいにとられたら、どうしようと思って。

だけど阿比留さんは全然そこには繋げなかったようで、キョトンと不思議そうな顔をした。


「あの実家に行きたいのか? 比奈子ってもの好きだな」

「もの好きって……、阿比留さんが生まれて育った家じゃないですか」

「べつに行きたいなら連れて行っても……」


ここまでは普通の会話だった。

だけど阿比留さんは何かを思い出したように、言葉を留めて表情を曇らせた。


「いや、やっぱいいや」

「え……?」

「俺が行きたくねーもん」

「どうして……?」


連れて行ってくれると言ったのに、途中でやめたのは何故だろう。

胸がざわざわする。


阿比留さんが眠れない原因は、家族との確執にあるのかもしれないと思って。

私なんかがそこに踏み込んでいいのかどうか、私はまだ迷っていた。
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