甘え下手
「あそこにはさー。魔女が住んでんの」

「魔女、ですか……」


一瞬、あのキレイなお母様があの豪華なキッチンで、鍋に怪しげな薬をグツグツ煮ている姿を思い浮かべてしまった。

うん、似合いすぎる。


「比奈子が魔女に食べられちゃったらヤだから、連れて行きたくない」


ぎゅーっと強く抱きしめられる。


大切だから連れて行かないってこと……?

だけど正直、素直に嬉しいと思える答えではなかった。


「比奈子、寂しい?」

「……」

「分かった。じゃ、俺が比奈子の家に挨拶に行く。それで、どう?」

「え……?」


鼻の頭同士をくすぐるように擦りつけてきて、その感覚に気を取られて返事が遅れた。


阿比留さんは結局、実家に連れて行ってもらえないのは、結婚を意識してくれないのが嫌だと言ってるんだという風に繋げたらしい。

いや、それも確かに指摘されてはいたんだけど……。
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