甘え下手
「あ、挨拶って何の?」

「ぷっ、比奈子テンパりすぎ。何の挨拶に来て欲しいの?」

「あ、いえ……。そうですよね」


だからすぐに結婚の挨拶に結び付けて慌てていると、そんな私の考えを見抜いたらしい阿比留さんにからかわれる。

単に付き合ってるって挨拶に決まってるよね、うん。


阿比留さんがちゃんと私の家族に挨拶してくれるっていうのは意外だったしすごく嬉しかった。

だけど阿比留さんの家の問題の方には、近寄らせてもらえないままだ。


だけど焦ることはないか、と私は自分を納得させてそれ以上の追求はしなかった。


魔女っていうのはもちろん阿比留さんの冗談だと思ったし、血を分けてもらった母親のことをそこまで悪くは思ってないだろうと考えていた。


阿比留さんの腕の中で眠れる貴重な週末の夜の幸せな時間を、不穏な考えだけで埋めたくない。

いつの間にか私はまた彼の腕の中の心地良さにウトウトと眠ってしまっていた。


同じ体温を共有して、この幸せな気持ちも共有してると信じてたから。

だから阿比留さんも同じように眠っていると信じて疑わなかった。


それで眠りが浅くなった時に隣に感じる温もりがないことに驚いてパチッと目が開いた。
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