甘え下手
「そんなこと言ってないよ、優子さん」


ゆっくりと物音を立てないように方向転換をしようとした私の身体は阿比留さんの声を聞いてビシリと固まった。


優子さん……。


胸がざわざわと嫌な不協和音を奏でる。

心臓がすごい速さで鳴ってる。


優子さんって……、あの優子さんだよね……?


お兄さんの奥さん。

決して遠い関係の人ではないけれど、それでもこんな時間に電話で話しているのは不自然な気がした。


「違うよ。美味かったよ、ハンバーグも」


聞いてたらダメなのに、身体が動かないから聞こえてしまう。

小刻みに身体が震えだす。


ハンバーグは……。

私に作れるって聞いてくれたのに……。


落ち着け。落ち着け。

何度も自分に言い聞かせて、冷たくなった足先をベッドの方へとそろそろ向ける。


もうこれ以上何も聞こえませんように。
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