甘え下手
だけど核心に近づく日はそう遠くなく訪れた。

きっと私が望む望まないに関わらず、これはいつか向かい合わなければならない問題だったに違いない。


私が優子さんに会ったのはそれから三週間後のことだった。


その日は週末だから阿比留さんのマンションに泊まる予定で、残業している彼よりも先にマンションへたどり着いて食事の用意をするつもりだった。

実家に連れて行ってもらえない私が優子さんに会う機会があるなんて思わず、すっかり油断していた私は、マンションのエントランスにコートを着て立っているほっそりした後ろ姿を見つけて固まってしまった。


そのまましばし考える。

無言で引き返して逃げてしまおうか。


一瞬、そんな負け犬根性が頭をもたげる。

私にやましいことは何もないはずなのに。


ここにいるということは阿比留さんに会いに来たのに違いなくて、私が声をかけたら嫌な思いをするんじゃないだろうか、なんてうだうだ考えてるうちに、気配を察したのか優子さんがこちらを振り返った。


「あ、比奈子ちゃん……?」

「こんばんは……」


不思議そうな顔で私の名前を呼ぶ優子さんに、私はごくごく小さな声で挨拶をした。
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