甘え下手
「比奈子ちゃんにこんなこと言うの恥ずかしいんだけど」と前置きをして優子さんは話し出した。


「実はもうずっと主人と上手くいってなくて……」

「え?」

「だけど、離婚には応じてくれなくて。正直、あの家にいると息がつまっちゃうの」


「分かるでしょ?」と言わんばかりに肩をすくめて微笑まれて、私は返答のしようもなかった。


「そういうの周りの友達には相談しづらいっていうか、共感してもらえないっていうか……。翔馬くんはあの家のこと分かってるから、つい色々相談しちゃってて」


優子さんがコーヒーカップに視線を落とす。

濃くて長いまつ毛が影を作る。


儚くてたおやかで。

優子さんが苦しいから、阿比留さんも苦しいのかなと想像した。


それってやっぱり特別な感情、なのかなあ……。


「阿比留さんはなんて……」

「家を出ろって言ってくれてる。不眠がひどくて。翔馬くんは心配してそう言ってくれるんだけど、そう簡単な問題でもないのよね」


眠れないのは優子さんだったんだ。

きっと阿比留さんは深夜の電話でずっと優子さんの相談相手をしてきたんだ。
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