甘え下手
その声になんでもないフリして、急いで玄関へと入る。

参田さんにはあっという間に見抜かれた私の恋心にも、この鈍感な兄にはちっとも気づかれていないらしい。


「沙綾、どうかしたのか?」

「え、なんで?」

「あんま強くないクセにガンガン飲んでたし、お前、さっき変だったし」

「ちょっと私の友達とモメて……」

「男じゃないだろうな。沙綾に変な男紹介すんなよ」

「……はいはい」


ったく、30にもなってシスコン(沙綾限定)なんだから。

そんなセリフをため息と一緒に噛み殺して、家へ上がった。


「航太も心配してたぞ」

「……」


背中から聞きたくもない情報が追加される。


櫻井室長は沙綾と飲んでたんだから、沙綾が荒れてたら心配するに決まってるけど、そんなこと聞いたら色々想像しちゃうじゃん。

私がいない時の二人の様子とか。


リビングを通ると、沙綾がソファにもたれかかってすやすやと眠っていた。

肩にはしっかりブランケットがかけられている。


ありがとう、シスコン兄貴。

できれば私のこともちょっとは心配してくれ。


私がせっせと焼き肉を胃に詰め込んでる時に、ここで櫻井室長と沙綾は一緒の時間を過ごしていたんだと思うと、やっぱり落ち込む気持ちはどうしても止められなくて、沙綾を起こさないように、足音を忍ばせてそっとリビングを通り抜けた。
< 35 / 443 >

この作品をシェア

pagetop