甘え下手
土曜日は取引先と打ち合わせがてら食事をしただけだったから、午後には空いた時間ができてしまった。

その日の首尾は上々で、このままいけば来年度の契約本数を増やしてもらえそうな雰囲気だった。


父親や兄貴からすれば、たいしたことないメーカーのひとつにすぎないだろうが、その中でも自分の努力が目に見えて結果に現れるこの営業という職種が、自分にはなかなか合ってるんじゃないかと思う。

季節はすっかり春めいて桜の花びらがひらひらとアスファルトに舞っている。


彼女と花見なんて行ってみるのも悪くないかもしれない。

夜会う約束をしてるから夜桜か。


そんなことを考えながら、暇だったことも手伝っていつも電車に乗る距離を歩いてマンションへと向かっていた。


セレクトショップや雑貨屋が立ち並ぶ大通りを歩いて、そういえば沙綾が働いてる店もこの辺りだって言ってたのを思い出す。

具体的な店の名前なんて覚えちゃいないし、知っててもレディースの店にノコノコ一人で入ってく勇気もないが。


むしろ沙綾には出会いませんように、だな。

店から出てくるアパレル系のお姉ちゃんを避けるように道路側に顔を向けて歩いた。
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