甘え下手
思った言葉は声にできなかった。

不安を形にするのが怖くて。


『別れ』を口にしたらこのまま彼女が二度と会えないところに消えてしまう気がして。


『新しい扉を、開けたかったの……』

「扉? どういうこと?」


固唾をのんで不自然な俺らの会話に聞き耳を立ててる比奈子。

その表情にも不安がありありと浮かんでいて、それが俺の焦燥を煽った。


『だけど……私……。間違えちゃったかもしれない……』

「は? 何をだよ!」

『……を…………』

「優子さん!? 聞こえないって! もっと大きな声でしゃべれよ!!」




――眠剤を飲む量を、


間違えちゃったかも、しれない…………。



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