甘え下手
その後のことはよく覚えていない。

通話はそこで途切れて、かけ直しても繋がらなかったから、実家に電話をかけて母親に救急車を呼ばせた。


不眠の症状があった優子さんは、睡眠剤を常用していた。

飲む量を多少間違えたくらいで命に関わるとは思わない。


だけどあの電話の言い方は。

まるで最後の――。


その後病院に向かってと、あわただしく動いていたことだけは確かなのに、その時の記憶が途切れ途切れでひどく曖昧だ。


病院の廊下で兄貴に殴られた。

最後の通話記録に俺の名前が残っていたと。


俺は俺で兄貴を殴り返して、母親がそばで泣いていたことを覚えてる。


だけど兄貴にどんな暴言を吐かれただとか、そういうことが頭に残っていない。

その時は優子さんの命が助かるかどうかばかりが気にかかって、なかなか教えてくれない兄貴に腹が立って。


結局、彼女は発見が早く、すぐに胃を洗浄してもらったおかげもあり、命に関わるようなことは起こらなかった。

もちろん俺は面会させてもらえなかったが。
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