甘え下手
「昔好きだった人が困ってたら放っておけないものですかね……」

「さあ。でも俺だったら比奈子ちゃんが困ってたら放っておけないかも」


私の質問に櫻井室長がちょっと困ったように笑う。

櫻井室長は優しいから、その言葉は嘘ではないだろう。


私も「そうですね。私も航太さんが困っていたら放っておけないかな」と少し考えてから答えた。


それと恋愛感情の境目はどこにあるんだろう。


それって本人にしか分からないことだよね。

それとも本人も……自覚がなかっただけ?


「比奈子ちゃんは?」

「え?」

「そんな彼のこと、嫌になった?」


言われて自分の心を見つめ直す。

私は即座に頭を振った。


嫌になんてならない。

阿比留さんの優しさ、人の心の痛みが分かるところに魅かれていたんだから。


私だけを見て欲しいってもちろん思っているけれど、それで他の人を見捨てて欲しいなんて思ってはいない。

ただ……。
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