甘え下手
「それより顧客増加プロジェクトは進んでるんですか? 私の分の案はもうチーフに見せましたよ」

「えっ、はやっ。俺まだひとつも出てねーんですけど」


現実逃避だと自分でも思う。

だけど仕事に没頭している間は余計なことを考えずに済むから。


昼休みを過ぎると、参田さんの態度が二割増し優しくなった。

分かりやすい同情。


阿比留さんから何か聞いたんだろうな……と思うと気持ちがずーんと落ち込んだ。


休憩コーナーにも極力近づかないようにした。

前にここで阿比留さんに確保されたことがあるから。


社内恋愛ってこういう時に面倒だ。


仕事とプライベートは分けたいのに、切っても切れない身近な関係。

同じ部署じゃないだけマシか……と自分を慰めて、フロア専用の給湯室でココアを作ったりした。


阿比留さんは阿比留さんで気まずい思いをしているのか、相当切り出しにくい話なのか、無理に私を待ち伏せするようなことはなかった。

仕事が忙しいのかもしれない。
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