甘え下手
私の仕事は繁忙期を過ぎているのをいいことに、さっさと定時で帰る日々が続いた。

同僚の秋菜と合わせて一緒に会社を出て、駅前の安いチェーン店の居酒屋でおつまみを食べながらちょっとだけお酒を飲む。


あれ、これって阿比留さんと出会う前の私の日常じゃん。

こうしていると阿比留さんと付き合っていた日々の方が嘘だったんじゃないかと思えるほどだった。


「で、自然消滅したの?」

「……してない、と思う」

「なんでしてないって思うの?」

「阿比留さんから毎晩電話がある。それに阿比留さんの性格からして自然消滅は狙ってない気がする」

「狙ってるのは比奈子の方?」

「……分かんない」


カウンターに伏せるようにしてぶどうサワーの泡が弾けるのを見つめてた。


別れたいって思ってるわけじゃないけど。


決定的なひとことを言われるよりは、このままうだうだしていた方が心の安定が保たれる気がしてしまう。

要するに私は臆病なだけなのだ。
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