甘え下手
「クリーニング代払えなんて冗談だったんだけど」

「いやっ、だって実際、クリーニングには出したわけですよね!? だったら受け取ってください!」


ぐいぐいと押しつけるような勢いで封筒を差し出す私に、阿比留さんは嫌そうな顔をした。

私達の横を通り過ぎる人達も何事かと横目でチラチラ見ている。


「ちょっとこっち来て」


阿比留さんはため息をひとつついて、私をひとけのない建物の影まで連れて行った。


「あのさ」

「はい?」

「会社でこういうの、迷惑なんだよね」

「……はぁ、すみません」


阿比留さんの言いたいことも分かるけど、会社以外で阿比留さんに会う手段なんかないし、仕方ないと思う。

第一、阿比留さんが封筒受け取ってくれれば済む話なのに。


「普通は、お詫びにお食事でも……とかじゃねーの?」


出たっ。

遊び人発言!


本気で誘われるのも、からかわれるのも困る私は、さっと身構えながら次の手を打った。


「実はロッカーに菓子折り持参してるんですけど……」
< 39 / 443 >

この作品をシェア

pagetop