甘え下手
『私が翔馬くんのマンションに行ったこと、言わないでねって口止めしたの私なの。比奈子ちゃんにも色々相談しちゃったし、心配かけてると思うから――』

「……そう」


そんなこと後で知って後悔したところでもう遅いんだ。

いや、後悔なら口に出した瞬間からずっとしてるけれども。


『あの人とのすれ違いと、どんどん素敵な男性になってく翔馬くんへの未練と、色んなのがごっちゃになっちゃってたんだと思う。私ね……いつでも逃げたかったの。幸せな結婚ができなかったっていう現実から』

「……あぁ」


分かるよ。


身内だからこその情なのか、兄貴へのコンプレックスの当てつけなのか。

はたまた初恋への未練か。


自分を縛っていたものはなんだったのか俺にだって分かっていない。


ただ。


「……さよなら、優子さん。もう会わないよ」

『……うん。いっぱい迷惑かけてごめんね、翔馬くん』


そうしたいという想いをストレートに伝えて、彼女の気持ちは分からないけれど、それでももう会うべきじゃないというのは両者暗黙の一致だったと思う。
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