甘え下手
最後の彼女の声が涙声だったとしても。

前を向いて歩きだした彼女の手を取る必要はもうどこにもなかった。


そこでハッキリと自分の想いがとうに風化していたことを自覚する。


――『幸せになってね』


ズルくて弱い彼女が吐いた最後のセリフは、俺にとってひどくシニカルに聞こえた。


「ああ……。優子さんも」


だけどその言葉に嘘はない。

彼女に悪気がないのも分かってるし、彼女への悪意もない。


――魔女だなんて言ってごめんな。


勝手に縛られていたのは自分なのに。

心の奥底でそっと懺悔した。


だけど俺にとっては彼女の存在そのものが魔力がかった枷で、だから比奈子をそこに近づけたくなかった。

結局俺の知らないところで二人は接触していたわけだけれども。


仁と話しながらそんなことを思い出して、感傷に浸っていた時だった。

静かな雰囲気のバーにあるまじきかけ声が俺を現実に引き戻した。
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