甘え下手
普段の俺だったらそんな女は心底ウザいと思って相手にしないところだけれど、心当たりがありすぎるだけに文句を言う気にもならなかった。

黙って立ちあがってイスに座り直すと、「何スカしてんのよ!」とまたキレられた。


「なんでお姉ちゃんのこと放っておくのよ! まさか本当に他の女に走ったんじゃないよね!?」

「沙綾ちゃん声が大きい……」

「仁ちゃんは黙ってて!」


周りの視線が一層冷たいものになったと感じるのは気のせいじゃあるまい。

こんなにも堂々と二股男だと非難されたのは、生まれて初めての経験だった。


「沙綾ちゃん。翔馬あの人とはちゃんと切れたみたいだからもうちょっと声抑えて……」

「ハァ!? お姉ちゃんそっちのけで首ったけだった彼女ともう切れたのっ!? どういうつもり!?」


どっちなんだ一体。

どっちにしろ俺はキレられる立場にあるらしい。


「沙綾ちゃん首ったけっつーと誤解があってさ。翔馬はただ義理のお姉さんだから放っておけなかっただけで……」

「ねえっ」


仁がそこまで説明したところで今度は首がグッと締まった。

沙綾にシャツの襟を後ろから引っ張られている。
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