甘え下手
無理やり後ろに引かれて振り返ると、沙綾の大きな瞳が至近距離で俺を睨みつけていた。

その瞳が涙で潤んでることに少し驚く。


激情型の妹だから、他人事でも簡単に沸点に達するのかと思ったけれど、そうじゃないらしい。

姉のことを自分のことのように思って激怒している。


やっぱり比奈子のトコロの兄妹関係はうちとは大違いだ。

比奈子の代わりに怒ってるんだなと思うと、沙綾にも申し訳なく思うと共に、比奈子が感じた怒りの大きさを目の当たりにして、胸に苦い思いが広がった。


「なんで何も言わないの!?」

「……何もって?」

「仁ちゃんにばっかしゃべらせてないで、自分の言葉で弁解しなよ!」

「言ったことも自分の取った行動も事実だから、今さら沙綾に弁解する言葉がない。だから黙ってる」


沙綾の表情の変化からブチっとキレる音が聞こえたような気がした。

沙綾のこと部外者っぽく言ったからキレたか。


「そういうのがスカしてるって言ってんの! あぁ~、もーイライラする! ぶん殴りたい」


沙綾はそう言って自分の頭に指をつっこんでぐしゃぐしゃと掻き回した。

綺麗なストレートのロングヘアがボサボサに乱れる。
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