甘え下手
「でもすぐに耳が取れちゃったの。乱暴に扱って大事にしなかったから。だけどそれ見てもお姉ちゃん、しょうがないねって怒んなくて」

「……ああ」

「だから分からなかったの」

「何が?」

「私がすぐに飽きたみたいに、お姉ちゃんもあのクマに飽きたんだと思ってたの。だから許してくれたんだと思ったの」

「……」

「だけど私がいない和室で、お姉ちゃんがクマのぬいぐるみ抱きしめて、大泣きしてるの見ちゃったの。すごい胸が痛くてガマンできなくて和室に飛び込んで一緒に泣いたよ。……だけどそれ以来お姉ちゃんの泣き顔見なくなった」


あの子が人前で涙を流さなくなっていく過程が、透けて見える気がして、飛んで行って当時の比奈子を抱きしめてやりたいと思うほどに、胸が痛くて切なくなった。


「そういうお姉ちゃんのこと、阿比留さんは分かってて近づいたんじゃないの? じゃあ今お姉ちゃんから阿比留さんにすがるわけないじゃん! そんなことも分からないぐらいならハンパに近づかないでよ! もう二度とお姉ちゃんの前に現れないで!」

「いや、沙綾ちゃん俺達同じ会社だから、それはちょっと難しいんじゃないかなー」

「もー! 仁ちゃんは黙ってて!」

「……そうだよな」

「え?」


俺がつぶやいた答えに、仁と沙綾の声がハモった。
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