甘え下手
「……阿比留さんのえっち」


流れ続けるお湯は温泉らしく、湯船には湯の花が浮かんでいた。

部屋に温泉がついてる旅館なんて今まで泊まったことがない。


阿比留さんは一緒にこのお風呂に入るつもりだったんだろうか。

想像して一人で勝手に照れてしまった。


露天がついてるから外から見えないように、ベランダは木の壁で覆われている。

そこについている木の窓を開け放つと、そこにはコバルトブルーの海が見えた。


一人なのに思わず「わぁ」と感嘆の声を漏らしてしまう。

後ろの和室でお茶を淹れてくれていた客室係さんが「海がきれいに見えるでしょう。この景色が当旅館の自慢なんですよ」と教えてくれた。


「開放感ありますねー」

「ふふ。都会の景色と違って遠くまで見えるでしょう? ごゆっくりなさってくださいね」


現金なもので、一人で来るのは傷心旅行じみていて嫌だと言っていたくせに、いざ来てみればいつもの空気と違うだけで、来てよかったなんて思ってみたり。

後ろ向きでうじうじしていた自分をきれいサッパリ洗い流せるんじゃないかという気がしてきた。
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