甘え下手
客室係の人が退室して、ひとりっきりになると、途端に手持無沙汰になる。

広い畳の部屋でごろりと大の字に寝転がってみた。


まだ新しい畳の匂いがする。

木目の広がる天井を新鮮な気持ちで見つめてみる。


キャリーケースを転がして家を出る私を、複雑な面持ちで送りだしてくれたお兄ちゃんを思い出してた。

「本当にそれでいいのか」って苦い表情で聞いたのは、お兄ちゃんなりに私達のことを心配してくれているんだろう。


お兄ちゃんは何だかんだ言っても、阿比留さんのことを気に入っていたから。

だから裏切られた気になって怒ってるんだろうし、それでも『本当に別れちゃってもいいのか』って言ってくれたんだと思う。


私のために。


「誰も別れるなんて言ってないけど」なんて言えるような態度を取っていないから、そう思われても反論もできない。

逃げてるのは私だし、だけど別れたくないと思ってるのも……私の方だ。


ゴロリと寝がえりを打ってうつぶせになる。
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