甘え下手
寂しい。


「……やっぱり海に行こう」


独り言をつぶやいてのっそりと起き上がる。

場所を変えても閉じ籠ってちゃ意味がないことに今さらながら気づいた。


温泉を堪能する前に海辺を散歩しよう。

潮臭くなったところで温泉でサッパリ、これだな。


その後は懐石料理に舌鼓を打ってー。

地酒なんか飲んじゃってー。


頭の中で楽しい夜のプランを立てながら、自分のテンションを上げることに努める。

小さなハンドバッグにお財布だけ入れて部屋を出た。


スマホは部屋でお留守番だ。


フロントで鍵を預けると、玄関付近に女将さんがいて、「散歩ですか?」と気さくに声をかけてくれた。


「ちょっと浜辺まで行ってきます」


そう答えると、近くの観光地と土産物屋が載っているマップを渡してくれた。

玄関には花柄の鼻緒が可愛い下駄も置いてあったけれど、浜辺を歩きたかったから自分の靴で外に出た。
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