甘え下手
――『それって楽しいの?』


「楽しいわけ……あるかぁーっ」


最初は小さく、最後はちょっと調子に乗って叫んでみた。

ホラ、やっぱり海ってなんか叫びたくなるじゃない?


周りに人いなくて一人だし。

波の音がいい感じに声をかき消してくれるし。


「私だって好きでこの性格やってんじゃなーいっ」


だけど止めたいと思ったって。

壊したいと思ったって。


これが私なんだから仕方ないじゃん。


――『本当に欲しいものができた時も、指くわえて見てるだけ?』


出がけに追い打ちをかけるように、背中越しに追いかけてきた妹の声が耳の奥で甦る。

ギクッとした。


だって私、覚悟が出来てないから逃げてるだけで、頭の中では完全に阿比留さんとの別れをシミュレーションしていた。

そのくせそれを指摘された瞬間に弾けるように叫んだセリフは「嫌だ!」だった。


沙綾のポカンとした顔を思い出して、また恥ずかしくて穴を掘って埋まりたくなった。
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