甘え下手
浜辺の鬼ごっこ
懐かしくも聞こえる心地良い低音に、一瞬風が運んできた幻聴かと思った。

続いて後ろから腕が伸びてきて抱きしめられたときは、変質者に羽交い絞めにされたのかと思って思わず「ぎゃっ」と叫んで振り払ってしまった。


前方に飛び退くように距離を取って、あわてて振り向くとそこにはいるはずのない阿比留さん本人が私服で立っていた。


阿比留さんだ!


脳がそう判断すると同時に私はダッシュで浜辺を駈け出していた。

ずっと阿比留さんから逃げてたからその条件反射と、さっきの一人遊戯を全部聞かれていたんじゃないかっていう恥ずかしさから。


突然脱兎のごとく走り出した私に、阿比留さんはビックリしたようだった。


「ちょっ、なんで逃げんだよ!」


そりゃそうだろう。

「そばにいて欲しい」の後の全力ダッシュ。


阿比留さんからすればわけが分からないに違いない。


だけどアレは誰も聞いていないっていう前提あってのガチな本音なわけで。

まだ阿比留さん本人に伝える心の準備もできてないし、全部まるっと伝えるつもりなんてなかった……!


だけどすぐに阿比留さんの息遣いが後方から近づいてきて、距離が迫ってきているのが空気で分かった。
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