甘え下手
少し切なげな阿比留さんの瞳と視線が絡む。

胸がドキドキする。


「……どうしてですか?」


私の気持ちを知っているのに、どうしてそんなことを訊くんですか?

そういう意味だったけど。


「比奈子のことが好きだから、そばにいれば触れたくなる」


阿比留さんは私が求めたのよりもずっと素敵な答えをくれる。

思わず顔が綻んだ。


「嬉しいです。……私も、触れて欲しいから」


大きな手が肩を包み込んで、抱き寄せられる。

視線は沈んでゆく太陽へ。


「阿比留さんのことが……好きだから。阿比留さんに好きでいてもらえて、嬉しい」


並んで同じ夕陽を見て。

二人の気持ちがピッタリとシンクロしたのを感じる。


初めから怖がってないで、気持ちを合わせれば良かった。

そしたらあの夜も、不安なんてなかったはずだ。
< 426 / 443 >

この作品をシェア

pagetop