甘え下手
「もしそうだったら、俺らはまんまと沙綾の手の上で踊らされたってことになるな。今まで門前払い喰らわせてたのも、あえて今日俺が追いかけるように仕組んだっぽくねえ?」

「……きっとそうだ。私が追いつめられないと爆発しないこと、さーちゃん知ってるから」


「はぁ、なんか姉なのに情けない……」としょんぼりしていると、阿比留さんがよしよしと頭を撫でてくれた。

それだけで顔がほころんでしまう私は現金だ。


部屋に入ると少し時間に遅れてしまったこともあり、慌ただしく料理が運ばれてきた。

阿比留さんが「飯はいいから早く比奈子が食いたい」とか言ってる最中に仲居さんが入って来て、私は聞かれたんじゃないかとドギマギしながら頬を赤くしてうつむいていた。


だけど阿比留さんのこと節操がないなんて言えない。

だって私ももうちょっと阿比留さんの体温をそばで感じていたいと思って、離れた時ガッカリしたから。


想いが通じた途端に貪欲になる自分に驚く。

頬の赤みを誤魔化すため、食前酒の梅酒をグッと一気飲みした。


「ほら、比奈子」


阿比留さんがグラスを持つように促して、瓶ビールを注いでくれる。

なんとなくお酒に逃げてるみたいなのが嫌で、しばらくアルコールを避けていた。

そのせいか、それとも阿比留さんが注いでくれたからか、しゅわしゅわ弾ける泡がとても美味しそうに見えた。
< 430 / 443 >

この作品をシェア

pagetop