甘え下手
「一番最初に優子さんにホレたのが俺」


昔話なのにグッと胸が苦しくなって箸が止まってしまった。

聞きたくないけど、聞きたいし聞かなきゃいつまで経っても乗り越えられない。


「すぐに告ったけど、『翔馬くんが大人になるまで待ってるね』って笑顔でかわされた。ま、中学生と大学生だからそんなもんだろ」


「そのままで済んだらどこにでもある苦い初恋の思い出ってヤツだったんだけどなー」と阿比留さんは目を細めてつぶやきながら、ビールをひと口飲んだ。

その様子は昔話を懐かしむって感じのもので、優子さんへのわだかまりが今はもうなくなったことを感じられた。


「同じく大学生だった兄貴と付き合ってるって気づいたのが……それから一年後ぐらい?」

「う……それはショックですね……」


本当はショックなんてひとことじゃ済まないぐらいの衝撃だったことは、似たような恋心をずっと大事にしていた自分だからこそ容易に想像がついた。


「まあ、あの二人は年齢も合ってるし? たぶんお互いずっと魅かれあってたんだと思うよ。だからそこまでは自然な流れ」


私ももし航太さんとさーちゃんがそういう関係になっちゃってたら、影で死ぬほど泣いて笑顔で祝福しただろうな。
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