甘え下手
「俺の兄貴はずっとエリート街道歩んできた人で、親父の跡継いでからかな……政治家とつるんだり、やたら世間体気にするようになったの。二人になかなか子どもができなかったのもあって、少しずつすれ違うようになったっていうか……。俺は家出てたし、俺の存在が影響したとは考えづらいんだけどな」

「そうだったんですか……」

「だって優子さんに色々相談されるようになったのって、あの二人が完全に冷え切ってからだし」


やはり事実は私の邪な想像とは違うものなんだと、話を聞かされて気づいた。

阿比留さんと優子さんとの間に昔からの何かがあるんじゃないかって、それが原因でお兄さんと優子さんは上手くいかなくなったんじゃないかって、勝手に想像して、勝手に傷ついてしまっていたんだ。


ああ、まさに一人上手。

さーちゃんの言った通りだ。


「だけど兄貴は俺が原因で優子さんが離れたがってるんじゃないかって思い込んでて、頑なに離婚に応じなかったみたい。兄貴からしたら自分より格下の弟に女持っていかれるなんてプライドが許せねーみたいな?」

「……そういうものですか?」

「ま、俺も優子さんを振り切れなかった理由に昔好きだった女だからってのがなかったわけじゃないから、兄貴のことばっか言えないけど」

「……」

「で、そんな中途半端な俺に惚れられちゃったのが比奈子ちゃんだったわけ」


ジトッとした目で見た私に気づいた阿比留さんが苦笑して肩をすくめた。
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